目が覚めると、真冬だった。 「本当の愛って、なんですかねえ」 「…は?なんだそれ、どしたの」 「いや...フロイトは、母性すら自己愛だ、とか言うじゃないすか」 「そなの?知んねえよ」 「言ってたんすよ。自分から生まれたもんに愛情与える」 「イコール、自分への愛情だ、と」 「そうっす。じゃあ結局愛ってなんだよ、て感じですよね」 「自己『愛』て言うんだし、それも愛なんじゃねえの」 「いや、それはそうかもしれないですけど。正直母親からの愛とかって、ほんと限りないというか、自分が死んででもこの子は助けたい、みたいな。そういう自己犠牲的なのが愛だと思ってたんですけど」 「あながち...間違ってないんじゃないの」 「いや、でも偉人にそんなん言われたら、そうかも〜とか思うじゃないすか」 「そうなの〜?と思います」 「バカにすんなよっ」 「してねえわい。…本当の愛ねえ、なんだろね」 「なんですかね」 二人は病院の屋上にいる。ひとりには彼女がいて、ひとりには妊娠中の妻がいる。さそり座とてんびん座。B型同士。28歳と22歳。 「あ、分かった!」 「なんすか、なにがすか」 「いや、ホントの愛だよ」 「分かったって…」 「おじいさんの孫に対する愛情はやべえぜ、な」 「…なんすか、どゆこと?」 「いや、だから。たとえば女孫が居るとするだろ、そんで白いもんを買ってくるとするじゃん。そしたら、孫は『じいちゃん、それ黒がええわ〜』て言ったら、何百万出しても、じいさんは黒にすると思うんだよ」 「ははあ〜」 「それがほんとの愛情じゃね?違う?違いますかね?」 「っどーなんすかね、愛なんすかね、それ」 「分かってねえなお前、ダメじゃん、だめだめ。まだまだよのお」 「ん〜…」 「…あ、で、お前これからどうすんの」 「いや、どうするもこうするも…どうにもなんないでしょ」 「…っだよな〜。マジまさかの展開。どうしようもないな」 「でしょ、だから屋上で待ってんじゃないすか」 「なにをだよ」 「……UFO?」 「はいだめ〜おもんねえ」 「ちょ、じゃいまのなしで」 「なしもありもねえよ、なに言われてもおもしろくねえわ」 「…ちっ」 「舌打ちすんなよな…あ、来たかも」 「あ、マジすか。どれ?」 一人の男が指差す。病院の外に早歩きの女。妊娠中らしい。顔がゆがんでいる。今にも泣き出しそうな顔をして老夫婦に付き添われている。 「あ、俺も来ましたよ」 もう一人の男が指差す。病院の外に走る女。背が高く髪が長い。彼女もまた、顔がゆがんでいる。今にも泣き出しそうに走っている。 「あ、来た来た」 「え、もう来ました?あ、俺もだわ。すっげえ」 「ごめんな〜ゆり…ゆきちゃん」 「なんすか、ゆきちゃんて」 「子供生まれたらゆきにしようと思ってたの」 「あ、いいすね、かわいい。…ごめん、えいこー」 ふたりの体がすける。曇り空の合間から光が差す。ふたりは消えていく。するり、と影も形もなくなる。病院の中では、二人の恋人や親たちが泣いている。それはもう、悲痛な叫び。 ・ ・ ・ ふたりは神様にこう言った。 「目が覚めたら、あたり一面、真冬みたいでした。真っ白っすよ、真っ白」 「あ、こういうのなんだ〜ってかんじだよな」 「そうそう、まさかっすよね」 「な〜。正直分かんないよ。ほんとに死んだとか思わねえもん」 「…あ、先輩、ゆきちゃん!」 「え?ええ?あ、ほんと、生まれてる!え〜もう生まれたの?!うわ〜かわいい」 神様はふたりがえらくテンションが高いので、とりあえず地獄に送るのはやめた。 |